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札幌地方裁判所 昭和42年(レ)52号 判決 1969年2月28日

控訴人 橋本良雄

被控訴人 京堂誠一

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し別紙目録記載の2の建物を収去して、同目録記載の1の土地部分を明渡せ。

被控訴人は控訴人に対し昭和四二年五月一日から右土地明渡済まで一ヶ月について金一、七五〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は主文と同旨の判決を求め、被控訴人は「控訴棄却」の判決を求めた。

控訴人は請求原因として

一、控訴人は別紙目録中1冒頭記載の土地を所有しているところ、昭和四二年三月六日被控訴人との間で右土地のうち同目録添付図面の斜線部分一一五・七平方メートル(以下本件土地という。)を次のとおりの約定で賃貸する旨の契約をなし、被控訴人は右土地上に別紙目録記載の2の建物(以下本件建物という。)を所有している。

(一)  使用目的 建物所有

(二)  期間   二〇年

(三)  賃料

(イ)  昭和四三年一二月末日までは一ヶ月について金一、七五〇円宛

(ロ)  昭和四四年一月一日以降一二月末日までは一ヶ月について金四、二〇〇円宛

(ハ)  昭和四五年一月一日以降は本件土地の更地時価の八〇%相当額に年六分の率を乗じて得たる額を利潤とし、これに右土地部分に賦課される固定資産税と都市計画税を加え、更に右両税の一・二倍相当の管理費を加算した金額を賃料とする。

(ニ)  賃料は毎月末日に当月分を支払い、不履行の場合は催告を要せず契約を解除することができる。

≪以下事実省略≫

理由

一、控訴人主張の請求原因第一項の事実については当事者間に争いがない。

二、そこですすんで控訴人主張の錯誤の点について検討する。

≪証拠省略≫を総合すると次の事実が認められる。

被控訴人はかねてより控訴人からその所有の紋別市幸町一丁目一八番地の土地約四九・五平方メートル(約一五坪)を賃借し、同所に家屋を建築してこれに居住していたところ、紋別市が昭和四一年度において都市計画に基づき施行することになった道路拡幅事業により、被控訴人の右賃借地の一部約一九・八平方メートル(約六坪)が道路敷地に該当することとなったため同所を立退かざるを得ない事情となった。そこで被控訴人は紋別市当局に対し自己の移転先として適当な代替地の斡旋を求めたところ、同年夏頃当時の都市計画課長荒川正男の斡旋により控訴人所有の本件土地を含むその近辺の土地の紹介をうけ、爾後右荒川を介して控訴人からその一部を賃借する方向で話が進められたが、従前の借地のうち前記都市計画事業により道路敷地に該当しない残余の部分についての賃貸借を解消するか或いは存続するかについて控訴人と被控訴人の意向が異なったり、新貸借予定地について控訴人と第三者との間に従前紛争が存在したところ、同年末にその最終的解決をみる予定であったりなどしたため、その交渉は具体的進展をみせないうちに同年一一月荒川課長は更迭され、新たに訴外粟田文吉が紋別市都市計画課長に就任した。昭和四二年二月一三日控訴人と被控訴人は紋別市役所において粟田課長等市当局者立会の上始めて直接の交渉を行い、その際賃貸借の目的土地を本件土地と確定したが、賃料の額については容易に双方の合意に達しなかった。即ち控訴人は賃料は、昭和四二年一二月末日までは三・三平方メートル(一坪)当り一ヶ月について金五〇円宛、昭和四三年一月一日から同年一二月末日までは同一〇〇円宛、昭和四四年一月一日から同年一二月末日までは同一五〇円宛、昭和四五年一月一日以降は本件土地の更地時価の八〇%の価格に年六分の率を乗じて得たる利潤に右土地に賦課される固定資産税、都市計画税を加え、更に右二種税の一・二倍相当の管理費を加算した金額と定めたいと提示したのに対し、被控訴人は右提示額のうち昭和四三年以降の分は高額に過ぎるとし、粟田課長も同じ考えから昭和四三年以降の賃料額については現在において予め決定することなく将来値上げの必要のある都度近傍類似の土地の賃料額に準じ両者間の話合で増額することにしてはどうかとの意見を述べたが、控訴人は従前被控訴人との間に借地事件につき種々紛議を生じ、被控訴人を信頼できないので本件賃貸借においては将来の紛争を避けるべく、賃料に関して疑義を生じないよう此の際賃料額について契約中に明確に規定しておきたいと強く希望し、右提示条件を被控訴人が承諾しない以上被控訴人には本件土地を賃貸できない旨の強い態度を示したため、当日は妥結に至らなかった。翌一四日控訴人と被控訴人とは再度紋別市役所に会合し、その際控訴人は昭和四五年一月一日以降の賃料額の条件については従前の主張を撤回することはできないが、それ以前の賃料の額については一部譲歩し、昭和四三年一二月末日までの分を三・三平方メートル(一坪)当り一月について五〇円宛、昭和四四年一月一日から同年一二月末日までの分を同一二〇円宛とする旨およびこれが控訴人としての最終的な条件であるから、被控訴人においてよく考えた上で諾否の返答をしてもらいたい旨申し入れた。被控訴人はこの条件についてもなお不満の意を表明しながらも右の約定で賃貸借契約の締結を承諾するか否かを四、五日中に返答する旨約して、右会合を終えた。その後控訴人は被控訴人から「その後冷静にしかも慎重に検討致した結果過日最終的に提示されました金額で契約させて頂きます」との記載のある同年三月六日付の郵便はがき(甲第二号証)を同日頃受領した。しかるに被控訴人は、右はがきの文面と異なり、昭和四四年以降の賃料額については約定どおりに任意に履行する意思はなく、ただ、市当局から都市計画事業の施行上従前の居住地からの早急の立退要請を受けていたため、右賃料額については将来なお改めて控訴人と再交渉することも可能と考え、とりあえず、控訴人が提示した条件で契約を締結することとして右はがきを差し出したのみであり、その後被控訴人は同年四月中旬本件土地上に家屋を新築する工事に着工し、約一月後に別紙目録記載の本件建物を完成し、同所へ転居した。控訴人は同年五月二八日前記条件を記載した賃貸借契約書を被控訴人の新宅に持参し、これに正式に署名してくれるよう被控訴人に求めたところ、同人はこれを拒絶し、本件賃貸借契約の約定のうち昭和四四年以降の賃料に関する条項には承服できないし、それを履行する意思もない旨を言明した。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫そして右認定の事実によれば、控訴人は昭和四二年二月一四日被控訴人に対し前記訂正された条件により、賃貸借契約締結の申込をなしたものというべきところ、右意思表示をするについては、将来の紛争を避ける意味において、控訴人の提示した賃料の条件について被控訴人が真実同意し、将来この点を蒸し返して争わず任意にその履行をなす意思を有することがその要素をなしていたものというべく、しかも控訴人は右申込に当り、被控訴人において控訴人提示の条件を承諾して賃貸借契約を締結する以上は右意思の下になされるものと信じており、被控訴人もこれを承知していたと認められるのに拘わらず、前記のとおり、被控訴人は真実右条件を容認したわけでなく、むしろその実質的解決を将来に留保し、現在のところこれを任意に履行する意思なくして契約締結の承諾をしたものであるから、控訴人のなした本件賃貸借契約締結の意思表示はその要素において錯誤があったといわねばならず、従って右契約は無効というほかない。

三、そうすると、他に特段の事情の見当らない本件では被控訴人は控訴人所有の本件土地を占有する権限を有しないわけであるから控訴人に対し、被控訴人が本件土地に所有する本件建物を収去して本件土地を明渡したうえ、被控訴人の右土地占有開始の後である昭和四二年五月一日から右明渡済まで一ヶ月について金一、七五〇円の割合による賃料相当の損害金を支払う義務がある。

よって被控訴人に対して右各義務の履行を求める控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、これを棄却した原判決は不当であって取消を免れず、本件控訴は理由があるから民事訴訟法三八六条、九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤安弘 裁判官 山田博 下沢悦夫)

<以下省略>

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